1.白内障手術を行うと糖尿病網膜症は悪化するか
以前の白内障手術は1時間近くかかることがあり、また強膜を6~11mmも切開して硬いプラスチック製眼内レンズを挿入するという侵襲の大きい手技であった為、術後の眼内炎症の蔓延により糖尿病網膜症に悪影響を与える場合がありました。
最近の白内障手術は短時間かつfoldable眼内レンズを用いて3mm以下の小切開・無縫合で行う侵襲の少ない方法で行うため、糖尿病網膜症に与える影響は昔よりかなり減っています。
即ち、現在では白内障手術によって糖尿病網膜症が悪化する頻度は極めて少なくなっていますが、新生血管の活動性が高い場合、白内障手術後に血管新生緑内障が憎悪する例が今でも報告されています。(このような症例では、術前に十分なレーザー治療が必要となってきます。)
2.白内障手術を行う前にHbA1cの値を低下させるべきか
以前は、白内障手術を行う際、血糖値が高いと術後の炎症が強まり黄斑浮腫を増強すると考えられており、HbA1cを8%以下に低下させた後、白内障手術を行った方が良いというのが一般的な考え方でした。しかし、最近の侵襲の少ない白内障の手術法では、必ずしも血糖値を低下させる必要がないとされています。
むしろ手術の直前に投薬を増やしてHbA1cを下げるのは、網膜のホメオスターシスを乱して糖尿病網膜症を悪化させる要因になるという意見もあります。当院では糖尿病網膜症が安定している場合、HbA1cが10%以下では白内障手術を行っていますが、現在までのところ網膜症が悪化した症例は経験していません。
3.悪化傾向にある糖尿病網膜症眼に眼内レンズを挿入してよいか
進行性の糖尿病網膜症患者に対して眼内レンズを挿入したことにより、糖尿病網膜症の合併症が増加したという報告は認められず、手術の成績も良好であったため、今月、進行性の糖尿病網膜症について眼内レンズの挿入が禁忌であるという項目が眼内レンズ添付文書から削除されました。
* 糖尿病治療薬の糖尿病網膜症へ及ぼす影響 (最近の話題)
1)ACE阻害剤およびARB(アンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬)は、軽度から中等度の糖尿病網膜症の進行を予防します。
2)アクトス等のグリタゾン製剤は、糖尿病網膜症における黄斑浮腫を憎悪させます。