「近視はなぜ進行するのか?」という疑問は以前より研究がされていましたが、
 

なかなか原因究明ができませんでした。
 
しかし、最近は眼科の検査機械の進歩もあり、
 
いろいろ近視進行のメカニズムが解明されてきました。
 
学童期のお子さんの近視進行は、弱い度数の近視も含めて、
 
大部分が「眼軸長」の過伸展による「軸性近視」であることがわかりました。
 
「眼軸長」とは、眼球の前後径のことで目玉の長さを意味します。
 
「軸性近視」とは、眼球が後方に伸びてしまったため、ピントの合う位置が網膜より手前に来て
 
しまい、近視矯正のマイナスレンズが必要になった眼のことをいいます。
 
「眼軸」が過剰に伸びれば、眼球の網膜、脈絡膜、強膜が引き伸ばされ病的な変化が起こり、
 
壮年期になると「黄斑変性症」、「網膜剥離」、「緑内障」など失明につながる眼疾患に罹患しや
 
すくなります。
 
近視進行の速い、眼軸長の伸展が著しい学童期に、眼軸長が伸びるのを抑制できれば、
 
将来の失明リスクを軽減することができます。

 
 
現代の医療は、「エビデンス(科学的根拠に基づく医療)」の考えの元に進められています。
 
「エビデンス」の元になるのは、臨床試験の結果です。
 
近視に関する代表的な臨床試験の研究で わかってきたことがあります。
 
 

アメリカ、シンガポール、オーストラリアで行われた3つの研究結果をまとめると、
 
学童期の近視進行に見られる特徴は、
 
①遺伝の影響が強い
 
②都市部で進行が速い
 
③近業の程度が強い(読書距離が短い、時間が長い、読む本の数が多い)ほど速い
 
④近視の進行は戸外活動で抑制される
 
⑤I.Q.や学歴が高いほど速い
 
が挙がってきました。
 
 
また、両親いずれも近視でない子に比べて、両親とも近視の子は近視になるリスクが8倍高く、
 
片親のみ近視の子は 2倍リスクが高いこともわかってきました。
 
また、近業の程度が強い学童であっても、晴天時の戸外活動を積極的に行うことで、近視化を
 
予防できることもわかってきました。その機序はまだ明らかではないのですが、現在は網膜が
 
強力な太陽光線を受けることにより、ドーパミン分泌が増え、眼軸長の過伸展が抑制されるの
 
ではないかと考えられています。
 
 
また、近視進行を予防するためには、
 
常にシャープな映像を網膜に映るようにすると防げます。
 
つまり、眼に合った眼鏡をかけることが大切になります。
 
 
また近業をする際、あまり近くで見ていると網膜に映る映像が後方に行ってしまい、
 
眼球が焦点に合わせて過伸展すると考えられています。
 
ですから、近業時は適正な距離で行うことが重要です。
 
 
また、薬を使った方法として、「アトロピン(調節麻痺剤)」点眼薬(ムスカリン受容体拮抗薬)

 

が使用されます。
 
ムスカリン受容体拮抗薬は、眼軸長を伸ばす働きがあると言われる、脈絡膜、強膜に分布する
 
ムスカリン受容体に直接作用し、眼軸長の伸展を抑制し、
 
近視の進行を抑えると言われています。
 
ムスカリン受容体拮抗薬には強力な調節麻痺作用(ピントが合わなくなる)と
 
散瞳作用(瞳孔が開いたままになり眩しくなる)がありますが、
 
低濃度(0.01%)の点眼液を使うことにより、
 
調節麻痺・散瞳の影響がなく近視進行の予防ができることがわかりました。
 
海外の研究報告ではありますが、0.01%のアトロピン点眼で、
 
1年間で平均0.65ジオプター、眼球の伸展を0.21㎜抑える効果がみられました。
 
 
当院でも、低濃度アトロピン(0.01%)の処方を行っておりますので、ぜひご相談ください。