『シャルル・ボネ症候群』とは、低視力になった際、
そこにはないはずの人物、動物、建物などが見える症状をいいます。
いくつか原因が考えられていますが、最も説得力のあるものは
『幻肢現象』と類似したものであるという説です。
『幻肢現象』とは、けがや病気により四肢を切断された人が、
あるはずのない手や足が痛む症状です。
つまさきや指がまだあるように感じたり、あるはずのない腕に痛みを感じたりします。
これは、脳内にある体の各部位に対応するマップが、
その部位を失ったにも関わらず更新されず
そのままになっているのが原因ではないかと考えられています。
眼にも『幻肢現象』と同じことが起こります。
白内障などで視力障害が起こった際に特有な『幻視』が起こります。
脳には目から送られてきた映像を、瞬時に認識し判断する際、
処理時間を早めるために今まで経験してきた映像で補う働きがあると言われています。
視覚システムの何かの要素が適切に機能しなくなったとき、
補おうとする働きで、独自に像を作り始め、
実際にその場所にはない映像が見える気がするのです。
この症候群の発症頻度は非常に高く、
低視力者の10%から40%におきると言われています。
視力では0.1位の方に多く、映像だけではなく、
色が見えたり、何か形が見えると表現される方もいます。
視力0.1位の眼は、まだ大きな力を持っているのに、
外界から以前ほど多くの像を受容、伝達しなくなり、
その結果、眼はそれ自身で像を作って足すためと考えられています。
人により『シャルル・ボネ症候群』をまったく経験しないこともあれば、
2~3か月だけのこともあれば、
あるいは何年間も続くこともあります。
そして、1か月に2~3回だけ数分間像を見ることもあれば、
週に何回も見たり、毎日見ることもあります。
しかし、『シャルル・ボネ症候群』であっても、その症状を訴えられる方は、
そのうちの1%以下であるといわれています。
ほとんどの方は「自分が精神異常と思われてしまう」、
「ばかにされてしまうのではないか」と心配して話されることなく、日々を過ごしておられます。
『シャルル・ボネ症候群』が、「白内障による低視力者」にみられるとなると、
高齢になられた方たちで見えないものが見えたと表現される方たちの中にも、
たくさんの『シャルル・ボネ症候群』の方たちが含まれていると考えられます。
低視力になられた方たちのお話にしっかりと耳を傾けて聞くことの大切さを
再度考えさせられる症候群です。
追記:平成25年3月9日
参考文献 「豊かに老いる眼 -黄斑変性とともに生きるー」
著 LYLAS G. MOGK, M.D., MARJA MOGK
監訳 田野 保雄 訳 関 恒子
文光堂 2003年発刊