1人が数人に見える、テレビの字幕がもう一段下にある、また車を運転していてセンターラインが2つに見えるなど二重に見えると訴えて来院される方がいます。今回はそのような見え方の話をしたいと思います。

物が二重に見える場合を「複視」といいます。複視には2つの種類があります。1つは片眼だけに起こる複視、もう一つは両眼で見たときに起こる複視です。それぞれ単眼性複視、両眼性複視といいます。

単眼性複視は、屈折異常(遠視・近視・乱視)、瞳孔異常、網膜異常などが原因の場合が多く、両眼性複視は、「斜視」が原因です。

二重に見える複視が、単眼性か両眼性なのかを鑑別する方法は簡単です。例えばどこか1点を見つめた状態で片眼を隠して見てください。ダブりが消えなければ単眼性の複視、ダブりが消えた場合(1つに見えた場合)は両眼性の複視です。

両眼性の複視の原因である「斜視」とは視線のズレのことをいいます。右眼で見ている方向と左眼で見ている方向とが異なるためダブって見えます。
斜視が起こる原因はさまざまです。その中で特に注意が必要な斜視は麻痺性のものです。眼の周囲に付いている筋肉が麻痺を起こしているため、各筋肉のバランスが崩れ斜視になります。麻痺性の斜視は通常の斜視とは異なり、1週間前や2週間前からダブって見えるようになったというように急に複視を自覚するのが特徴です。また、麻痺性の斜視では麻痺筋が作用する方向を見た時に視線のズレが最も大きくなるため、複視がより強くなります。そしてそれを避けるために頭の位置を回したり傾けたりして麻痺筋が働かないように調整しています。また、片目を隠した方が複視を感じないため片目を閉じて見ている方もいます。

麻痺が起こる原因はさまざまですが、中には早急に詳しい検査や治療をしなければならない疾患がひそんでいる場合があります。急な複視に気づいたら、すぐに眼科を受診するようにしてください。

 

 

参考文献:麻痺性斜視 日本弱視斜視学会 http://www.jasa-web.jp

佐藤美保  目で見る斜視検査の進め方 金原出版 2014