視細胞が杆体のみ、もしくは杆体と1種類の錐体からなる1色型色覚の人は、外界が白黒写真のように見えています。しかし、錐体が2種類ある2色型色覚の人がどのように見えているかということは、色が主観的なものであるため、正常の色覚を持つ人にとって、なかなか理解することは難しいです。
以前のブログでお話しましたように、2色型色覚には第1色覚異常(赤錐体の欠損)、第2色覚異常(緑錐体の欠損)、第3色覚異常(青錐体の欠損)がありますが、どの型の色覚異常にも共通していえることは、正常の人と比べてある特定の色の識別が苦手で、判別できる色の種類が少ないということです。
ここで注目すべき点は、第1色覚異常と第2色覚異常の人は、極めて似た色の見え方をしているということです。即ち、両者は共に赤から緑にかけての色が全て鮮やかに見えず、正常の3色型色覚を持つ人が感じる黄色味がかった茶系の色に見えているとされています。第1色覚異常と第2色覚異常は色の見え方に大差がないため、この2つを合わせて赤緑色覚異常と呼んでいます。
赤緑色覚異常の人は、赤と緑が判別しにくいため、緑の葉の中にチラホラある赤い紅葉が認識できません。また、濃い赤とこげ茶色が間違いやすいため、焼き肉の焼け具合が分かりにくいです。更に、濃い緑と茶色を混同するため、子供が植木鉢の花の絵を描く際、葉を茶色に植木鉢を緑に描いて、お母さんが色覚異常に気が付くことがあります。(図1)
第1色覚異常と第2色覚異常が類似した色覚を持つ理由は、緑錐体の視物質である緑オプシンが、進化の過程で赤錐体の持つ赤オプシンの遺伝子の重複によってできたためです。その結果、赤オプシンと緑オプシンの間にはアミノ酸15個の違いしかなく、両者の光の吸収特性が似ていて同じように色が感じられるのです。(図2)
しかし、1つ例外があります。それは、第2色覚異常の人とは異なり、赤錐体のない第1色覚異常の人にとって、赤は明るい鮮やかな色ではなく暗い地味な色に見えることです。特に、濃い赤はほとんど黒に見えるため、赤色のボールペンの文字を黒と間違えることがよくあります。また、赤いレーザーポインターは非常に見えにくいです。しかし、緑錐体のない第2色覚異常の人が、緑色の光が見えにくくなることはありません。
この理由は、可視光線のもっとも長波長側の領域(赤色の領域)は、赤錐体のみが光を吸収することが可能で、緑錐体や青錐体では光を捉えることができないためです。一方、赤錐体の吸収極大波長は赤ではなく黄緑色の領域にあるため、第2色覚異常では、緑錐体がなくても赤錐体の働きで緑色の光を受容することが十分に可能です。このため第2色覚異常の人は、正常の3色型色覚の人と色調が異なっても緑色がはっきり見えるのです。(図2)
青錐体が正常に機能しない第3色覚異常では、黄色の鮮やかさが低下して、白っぽく見えてしまい、青が緑っぽく見えてしまいます。しかし、第1色覚異常や第2色覚異常と異なり、3色型色覚の人に比較的近い色の感じ方をしています。
この理由は、正常色覚を有する人は、3種類の錐体細胞のうち赤錐体と緑錐体からの情報を重点的に色の識別に利用していて、青錐体からの情報の比重が相対的に低くなっているためです。従って、青錐体がない第3色覚異常の人の色の感じ方が正常な人に近くなるのです。
インターネット上で色覚異常の人の見え方をシミュレーションできる、以下のようなサイトがあります。皆さんも2色型色覚の人の色の見え方の特徴を、疑似体験してみてはいかがでしょうか。
https://www.ryobi-sol.co.jp/visolve/jp/simulation.html
http://matome.naver.jp/odai/2134772766739174501
http://happycolors.net/simulation.html